公開: 2024年6月11日
更新: 2024年6月12日
社会において、報道機関の役割が確立した近代以降の社会においては、新聞、放送などの公共的な報道機関によって、広く国民に提供される情報は、その社会における人々の情報源として、重要な役割を担うようになりました。この報道機関の信用力を、為政者が積極的に利用し、国民を一定の方向に誘導しようとする意図で、情報提供を続ける場合、そのような報道を政治的な宣伝と考え、「プロパガンダ」と呼びます。
第2次世界大戦に突入するまでのドイツのナチス政権は、ドイツ国民に対して、ポーランドへの侵攻を正当化するため、積極的にドイツの報道機関を利用して、国民を扇動(せんどう)しました。ドイツの若者の多くは、このプロバガンダを信じて、ナチスの政策を支持し、その実施に参画したり、その実施を支援したりしました。似たようなことは、戦前の日本でも起きていました。
日本社会においては、21世紀になった現在でも、戦前の政府によるプロパガンダの影響で、誤った情報を真実だと誤解し続けている人々や、その人々から強く影響を受けた子孫がいます。例えば、「朝鮮半島の人々は、日本人よりも劣っている」と信じている人々、「日本人は、単一民族である」と信じている人々、「日本人は靖国神社に祀られている英霊に対し、敬意と感謝の念を抱くべきである」と信じている人々です。
戦前の日本社会では、そのようなプロパガンダとして子供たちに最も影響を与えた思想に、「教育勅語」がありました。この勅語は、明治天皇が、全国民に対して、なぜ教育が重要なのかを、倫理的な視点から説明したものです。その倫理の根幹には、臣民である国民は、自らの生命をかけて、「天皇を中心とした日本社会の伝統と文化を守らなければならい」と述べています。特攻隊の若者たちは、この思想に殉じ、米国の艦船めがけて、体当たり攻撃をしました。
朝日新聞2024年6月12日、オピニオン&フォーラム「戦争プロバガンダと子ども」、斎藤利彦インタビュー